さよなら川崎球場

ゲスト寄稿

「社会人野球スポニチ大会」にて(2000年3月15日)

ゲストブック「サブスコアボード」にダブルデッキさんより「スポニチ大会」の模様のレポートを頂きましたので、ここに転載させていただきます。

3月15日に生まれて初めて川崎球場に行ってきました。2000年の初観戦です。社会人野球スポニチ大会で川崎球場を使うのはこの日が最後。イベント色のない純粋な公式戦は、最後かもしれません(まだあるのかな? 未確認です)。この時期にしては、風が穏やかで暖かい日でした。

 

【あっけなく発見】

観客が少ない日でもラーメン屋が営業しているのかどうか自信がないので、念のためコンビニでおにぎり2ケを購入して球場へ。ジャンパー姿のどこかの選手らしき人が入口の近くで暇そうに立っている。出場チームのチーム券を配る係の人だ。

満面の作り笑いを浮かべて近づいていったら、チケットの綴りから、ぎこちない手つきでチーム券を一枚切り取り「どうぞ」とぼそっとつぶやいて渡してくれた。せっかくミシン目があるのに、上の端はミシン目のないところで強引にちぎられている。

手がかじかんでいるわけでもなかろうに。ミシン目に沿って一度折り曲げると簡単に切り取れるのだが、ノウハウ不足の新入社員だろうか。

無残にも上部が凸凹になってしまったチーム券でゲートイン。入場口の幅が狭くてまさにゲートインという感じ。これがTVで観れない川崎球場か! しかし本当に試合をやっているのだろうか? 球場の周りで目撃した人影は、チーム券のオニイサン、もぎりのオニイサン×2、一般のおっさん×2の計5人だけ。

歓声も金属バットの音もまったく聞こえずあまりにも静寂だ。「大会」と名のつくことが行われているとはとても思えない。心細くなってきたが、とにかくラーメ ン屋を探さねば。取り壊し間近というだけあって、気のせいか全体的にモノトーンな雰囲気。

おや? 視界の右舷前方から黄色い色彩が目に飛び込んでくる。何だろう? 看板だ。近付いてみる。確かに書いてある。「ラーメン」

こちらのホームページに載っていた写真とまったく同じものが、今、目の前に建っている。これが噂のラーメン屋だ! ラーメン屋はいとも簡単に見つかった。見つけようとしなくても見つけざるを得ないほどの存在感を誇示していた。

ここで第二の懸念が頭をよぎる。こんなに人が少なくても営業しているだろうか? 閉まっていたら川崎まで何しに来たのか分からない(笑)。店の中を遠巻きにのぞき込んでみる。人影が見える。厨房に3人いる。目撃合計8人になった。営業しているようだ。と、その時、店から客らしきおっさんが一人出て来た(9人目)。 これで間違いない! 有名なラーメンにありつくことができる。

まだ11時でお腹は空いてない。楽しみは後に残しておこう。野球を見に来たことを、ふと思い出し、球場の中に入ってみることに。ゲートインした時は緊張していて気づかなかったが、ちゃんと売店も営業している。通路に選手がたむろして、みんなで煙草を吸っている。ちょっぴりだが「大会」という感じがしてきた。

階段を昇って観客席へ。グランドに目をやると試合開始前の整備中。なるほど、音が聞こえないはずだ。ネット裏には結構人がいる。ほとんどが大会関係者とプロ野球のスカウト。仕事で見に来ている人達だ。平日の社会人野球のマイナ ーな大会なので、こんなものであろう。観衆100〜150人程度だろうか。

ロッテの消化試合で観衆500人というのがあったが、その5分の1かと妙に納得。 某球団の某スカウト氏は、花粉対策で大きなマスクとごついゴーグルを着用して、まるで溶接工のようないでたち。野球を見るのが仕事とはいえ気の毒に思う。

 

【とまどうマニュアル人間】

まもなくこの日の第二試合が始まり、どうという盛り上がりもなく7−3で終了。時計の針は13時を少し回っている。お腹が空いてきた。階段を降りていざラーメン屋へ。「食券をお求め下さい」と書いてある。ホームページに載っていた通りだ。こうなれば勝手知ったる常連気分、初めて来たような気はしない。

券売機はレストランのところにあるはずだ。レストランは殿方が用を足したときに、 隣にあるのを発見済みだ。レストランに直行し、ただちに券売機を発見。「ラーメンはラーメン屋で・・・」と書いてある。しめしめと思いながら千円札を券売機に投入、ウィーンと吸い込まれランプが点灯。「ラーメン」のボタンを探す。

ん? どこにも見当たらない。並んでいるボタンは、上段左側から、「中華そば」 「中華そば」「チャーシューメン」・・・。上から下まですべてのボタンを見てみたが、「ラーメン」は見当たらない。売切れだろうか? 投入金額不足だろうか? そんなはずないだろう。「中華そば」で良いのかな? 券売機の場所を間違えたか? 

気が付くと背後に何人か並んでいる。プレッシャーがかかる。清水の舞台から飛び降りる気持ちで、最上段左から2番目の「中華そば」をPUSH。チャランと釣銭が出て来た。食券はどこだ? 別の所から出てくるのか? しゃがんで釣銭の出てきた所をのぞき込む。取出し口の奥の壁に食券が引っ付いていた。

食券を握り締め、ラーメン屋へ移動。厨房にはさっきの3人がいる。その中の最も小柄な人に、恐る恐る「中華そば」の食券を渡す。「いらっしゃいませー! ラーメンお願いしまーす!」。声を聞いて女性だと分かった。どうやら「中華そば」で正しかったようだ。

しばらくしてラーメンが出てきた。ホームページの写真とそっくりだ。うれしいことに、ちゃんとゆで玉子半ケが入っている。今日はデフォルト設定日だった。先に食べ終わったおっさんが「味わって食べたよ」と店員に言い残し、名残惜しそうに店を去る。本物の常連の人には思い入れがあるのだろう。

店内が徐々に混んできた。スープを水深2センチほど残して、店を去る。そういえば「中で?」とか「外で?」とか聞かれなかったし、他のお客さんにも聞いていなかった。これもデフォルトで設定されていたようだ。

 

【5分間3発】

観客席に戻るとまたもグランド整備中。整備をするのはマウンドとベースの周囲の土の部分だけだが、念入りなのか緩慢なのかやけに時間がかかっている。

やがて第三試合開始。狭い球場で大人が金属バットで打つと、簡単にスタンドイン。 試合開始から5分間で3本のホームランが飛び出す。締まらない試合になりそうなので、川崎球場の観察を開始。一塁側へいったり三塁側へいったりウロウロしてみる。

午後になって幾分観客が増えたようだ。外野席に一人でポツンと座っている人や、試合そっちのけで球場の写真を撮っている人が何人かいる。歩き回っていたらお腹が空いてきた。3時のおやつにコンビニおにぎり2ケをぱくつく。

陽が傾くとさすがに風が冷たくなってき。ライトポールの短小さが気になりつつ、 我が身を振り返りながら、球場を後にすることに。 ラーメン屋の向こう側では、別の野球場の工事が行われていた。さよなら川崎球場、さよならラーメン屋。

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