防府スポーツセンター野球場

(ゲスト寄稿/広島県・いの一番さん)

2002年8月25日、筆者はイースタンリーグの湘南−巨人を観戦するため山口県防府市に向かった。この書き出しを読んで「イースタンは山口県でも試合をするのか?」と思われた方がいるかもしれないが、実はイースタンリーグは年何試合かは西日本でも開催されている。特にゴールデンウィークに巨人が九州各地を転戦するのは恒例だ。

ちなみに本日の試合は湘南の主催で前々日の下関(実際は雨で中止)、前日の宇部に続く山口県内3連戦の最終試合だ。歴史をたどれば湘南はもともと下関を本拠地にしていた大洋ホエールズなので、山口県で試合をするのは不思議ではないだろう。

広島駅から山陽本線に乗ること2時間あまり、12時10分過ぎに防府駅に到着した。駅の外に出ると強烈な日射しが照りつけとても暑い。気温はもちろん30℃を超えている。事前に調べたところでは球場は駅の南側約3.5kmのところにあり、路線バスがあるということだったので駅前のバス乗り場に行ってみた。

すると本数は少ないながら12時25分発のバスがあったので、一瞬「これは運がいい」と思った。だがよく見るとそれは平日の時刻だった。休日の方を見ると次は13時ちょうど発で試合開始と同時刻なのでこれはダメだ。もしかしてバスの臨時便でも出ていないかと駅周辺を探して見たがそれらしい表示もない。どうも主催者は車以外の交通機関で来る者がいることを想定していないようだ。仕方ないのでタクシーで球場に行くことにしたが約10分で1300円かかった。

球場に着くと周辺はたくさんの人で賑わっていた。応援グッズ販売店や飲食店もなかなかの盛況である。切符売場に行くと、座席は特別内野席(ネット裏とベンチ上)、一般内野席、外野席の3つに区分されていたので特別内野席を買うことにする。当日料金は2500円だ。広島カープ関係の安い二軍戦に慣れている筆者としてはこの料金は高過ぎるような気もするが、遠くからチームを呼んでいるので仕方ないのかもしれない。もっとも巨人絡みでたくさん客が来るのを予想して高く設定したという気がしないでもないが。


入場券

場内に入ろうとすると、入口にこの試合のガイドブックと思われる冊子が積んであるのを見つける。A4版の分厚いものだ。有料かと思い係員に尋ねると無料とのことなので一冊もらい中を開いてみる。ページ数が多いので何が載っているのかと思ったら、最初の4ページが両チームのメンバー表で後は延々90ページ地元企業の広告であった。おそらく運営費用を出してくれたお礼をする意味があるのだろうが、これでは紙と金がもったいないのではなかろうか。広告だけが固まっていては誰も見ないので効果はほとんどゼロだろうし、このような冊子に金をかける分、入場料を少しでも安くしてほしいと思う。

それはさておき、中に入ると特別席はほぼ満員であるものの、他は比較的すいている。自分もそうだが、料金は高くても近くで見たい人が多いようだ。それではここで球場の概要を紹介しよう。

大きさ:両翼92m、センター120m
グラウンド:内野土、外野天然芝
スタンド:特別内野席−ベンチ席、一般内野席−コンクリート階段、外野席−芝生席
スコアボード:手書き式

一塁側から 三塁側から
   
スコアボード

球場自体はどこにでもある地方球場という感じで、とりたてて特徴はない。市役所のHPによるとスタンドの収容人員は11000人ということになっているが、余程詰め込まないと無理だと思われる。余裕を持ってせいぜい5000人くらいが妥当なところだろう。スタンドのうち、一般内野席はコンクリートが階段状になっているだけでイスなどはなく、この日のように暑い時は居心地のいい場所ではなさそうだ。

またグラウンドは一昔前の標準サイズなので、近年作られた下関や宇部を始めとする広い球場に比べると、どうしても見劣りしてしまう。ここは以前、夏の高校野球の予選にも使用されていたが、最近は大きな試合とあまり縁がないようだ。

さて、試合開始まで10分を切ったあたりから、一塁側ベンチ前では湘南の25番の選手と巨人の20番の選手がキャッチボールを始めた。これから対戦するチームの選手同士がキャッチボールをするのは見たことがない光景である。しかしメンバー表を見ると湘南に25番の選手はいないし、巨人の20番は一軍にいるはずの入来だ。変だなあと思いながら双眼鏡でよく見ると、2人ともいい歳をしたオジさんで、湘南の方は「MATSUURA」、巨人の方は「TAKAHASHI」と背番号の上に書いてある。ますます何のことかわからなくなったが、始球式になって2人の正体が判明した。

「MATSUURA」は防府市長の松浦氏、そして「TAKAHASHI」は地元防府高校出身で巨人や西鉄で活躍した高橋明氏だったのだ。投手役が高橋氏、そして打者役が松浦市長である。地方試合の始球式というと、大抵は地元の少年野球選手が務めるものだが、たまにはこのようにOBの元気な姿を見せるのもいいことだと思う(もっとも二軍戦で始球式のためだけにユニフォームを作るというのも珍しい。もし雨で中止になっていたら、着られることなく終わったのだろうか)。

そしてここでハプニングが発生した。松浦市長は高橋氏の投球を慣例通り空振りせず、バットに当ててショートゴロにしてしまったのだ。スタンドからは笑い声が起きる。その時は偶然当たってしまったのかと思ったが、この市長さん、試合中はユニフォーム姿のままスタンドに現れてウロウロしていたので、もしかすると目立ちたい方で、わざと打ったのかもしれない。


始球式

続いて試合は湘南後藤、巨人小野仁の先発で始まり、次のような結果になった。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9  
巨人  
湘南 X  

勝−米(5試合2勝)
負−小野仁(15試合4勝3敗)
本−ヤング4号@(鴨志田)
観衆−2870人

巨人は4回表、湘南先発後藤の不調につけこみ1点を先制したが、後はゼロ行進、一方湘南は試合後半に得たチャンスを確実にものにして逆転勝ちを収めた。2番手で登板した地元山口県出身の米が力投して勝利投手となり故郷に錦を飾った。

湘南シーレックスのマスコット「レック」

試合が終わりグラウンドではサインボールなどが当たる抽選会が始まりかなりの観客が残っていたが、帰りの足を確保しないといけない筆者はすぐに球場を出た。すると幸運にも球場前にタクシーが1台だけ客待ちをしていたので、これに乗り駅まで行くことにした。タクシーの運転手は初老の人で、筆者が広島から来たというと、自分も昔広島に住んでいてよくカープの試合を見に行ったものだと思い出を話し始めた。

この運転手氏、子供の頃は総合グランドに足を運び、市民球場でのカープ初試合や外木場のノーヒットノーラン、長嶋清幸の対巨人2試合連続サヨナラホームランなどを生で見たのだそうだ。まさに筋金入りのカープファンである。防府にいると野球が見に行けないと淋しそうだったが、10分ほど野球談義に花が咲いた。

帰りは暑さでくたびれてしまったので、防府から徳山まで山陽本線、そこからは新幹線に乗り広島に戻った。今回筆者にとっては初めてのイースタン観戦だったが、なじみのない選手を生で見るのは結構新鮮だし、思い入れのないチーム同士の対戦を第三者の立場で見るのもそれなりに楽しいものだ。今後も機会を見つけてイースタンに行ってみようと思った次第である。

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