しまなみ球場

(ゲスト寄稿/広島県・いの一番さん)

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2002年8月18日、筆者はウエスタンリーグの広島−阪神を観戦するためしまなみ球場に向かった。この球場では初めてのプロ野球開催だ。ウエスタンとはいえ、地元球団の広島と甲子園を本拠地にする阪神の対戦はこの球場に最もふさわしいカードだろう。

広島駅から山陽本線に乗り、11時11分尾道駅に到着する。天気は曇りで気温は30℃前後というところ。筆者は暑いのが苦手なのでこのくらいの気象条件はありがたい。

尾道駅前はバス乗り場になっており、ちょうど観戦者用のシャトルバスが待っていたのでこれに乗る。後述するように、球場のある「びんご運動公園」へは、普段定期バスの本数が非常に少なく、この日のように臨時便を運行してくれるのは大変助かる。

バスはほどなく発車して途中で客を乗せながら公園まで走る。所要時間は20分だ。公園内は多くの車で渋滞しており、球場に近い駐車場はすべて満車になっていた。筆者は7月7日のオープン記念試合にも来たが、その時よりもはるかに数が多い。係員が後から来た車に遠くの駐車場に停めるよう指示していたが、バスはそんな光景を尻目に球場のすぐ下まで入ってくれる。運賃もたったの100円と格安だ。この試合では利用状況が芳しくなかったようだが、便利さと安さを宣伝すればもっと使ってもらえるのではないかと思う。

バスを降りて球場正面の三塁側にある窓口に行き入場券を買う。この日の料金は内外野一律500円だ。窓口の前には応援グッズを売る店が出ており、見るとすべて阪神のものだ。その後一塁側に行くとそちらの店は広島のグッズだけを売っていた。普通は一緒の場所で売っているものでその方が売る側の効率もいいように思うが、阪神ファンも多い土地柄なので配慮したのかもしれない。


阪神グッズ売店

スタンドに入ると、既にかなりの客が入っており2000人を超えている感じだ。7月7日には入れなかった外野席もこの日は開放されていた。また両チームの応援団もスタンドに陣取っていて試合前から気勢を上げている。一塁側の広島応援団は、いつもは市民球場の外野席で応援している一団と福山や岡山の応援団が合体しており賑やかだ。

外野応援団はウエスタンの試合にもよく来ていて、静かな空間を10人ほどの力で市民球場の外野席の雰囲気にしてしまう。他人事ながらこの方々は野球観戦にどのくらいのお金をつぎ込んでいるのか気になる。

一方三塁側の阪神応援団も、広島猛虎会に岡山の応援団が加わっている。人数では一塁側に劣るものの、熱心さでは負けていない。ただこの日はトランペットが下手で時々複雑なメロディーが演奏できず、太鼓だけの応援になっていたが(笑)。


カープ応援団

さて、試合開始時刻の正午が近づきグラウンドではセレモニーが始まった。地方球場では恒例の両チーム監督への花束贈呈があり、続いてこんなアナウンスが流れた。「なお、広島の山内投手、阪神舩木投手には尾道商業高校野球部OB会から花束が贈られています」

そうそう、両チームともご当地選手がいるのだった。高校では山内の方が1年先輩になる。2人ともプロ1年目の成績が一番良く、2年目から年々下降線をたどっているという妙な共通点を持っている。

筆者はこの場内放送を聞いた時、「2人とも20代だから、もうひと花咲かせないといけないな」と思った。しかしシーズン終了後2人がどうなったかは皆様ご存知のとおり。山内は引退し、舩木は自由契約となった後、ロッテにテスト入団ということになった。試合時にはもちろんそんなことになるとは予想していなかったが、いくら過去に実績がある20代の選手でも成績が悪ければ復活を待ってもらえないのだから、やはりプロ野球は厳しいところだ。

続いて少年野球選手による始球式がありいよいよ試合開始、広島の先発は前述の山内、阪神は星野である。先制したのは広島で1回裏栗原の三塁打で1点を取った。早くも一塁側スタンドは大喜びだ。しかし阪神は2回表藤本の二塁打で追いつくと、3回表には喜田と浅井の連続タイムリーで3−1と勝ち越した。今度は三塁側スタンドが盛り上がる。山内は独特のUFO投法で投げ込んでくるが、入団当時のような元気さが感じられず淋しさを感じる。


始球式

一方の星野は2回以降立ち直り、ベテランらしい投球で広島の若手打者を手玉に取っていく。結局7回まで投げて初回の1点だけに抑える好投を見せ、マウンドを降りた。そして3−1のまま進んだ8回裏、試合は大きなヤマ場を迎えた。広島は3四球で無死満塁の大チャンス、そこで登板したのが舩木である。打者は3番の廣瀬でどう見ても1点は入る場面だったが、打球はショートライナー、これにつられた2塁走者が飛び出して併殺となり、これで流れは阪神に戻った。この後舩木は打者4人を完璧に抑え、結局阪神が勝利した。

実はこのカードは前々日から行われており、3連戦開始時点では首位が阪神、2位が広島という首位攻防シリーズだった。もし広島が3連勝でもすれば一気に阪神に肉薄し、ウエスタンの優勝争いが面白くなるところだったが、結果は3連敗で阪神にマジックナンバーが点灯してしまった。阪神はこの後順調に勝ち進みウエスタンで優勝、日本一選手権でも西武を破りファーム日本一になった。後から思えばこの試合に勝ったことが優勝を決定付けたように思える。もしかすると甲子園を本拠地にしている阪神の"経験"がものを言ったのかもしれない。


なお、
おぐらさんから球場の概要については紹介されているが、次の2点について補足しておこうと思う。

<その1 公共交通による球場への行き方>

公式案内によると、球場の最寄り駅は山陽新幹線の新尾道駅で、距離はそこから1.5kmということになっている。ここで注意しないといけないのは、この駅は新幹線専用駅で「こだま」しか停まらず、山陽本線(在来線)の尾道駅とは全く別の場所にあるということだ。2つの駅の間は車で約10分かかる。

さらに注意が必要なのは新尾道駅から球場までの距離だ。1.5kmくらいなら歩いても大したことはないと思われる方がいるかもしれないが、実はこれは運動公園入口にある事務所までの距離で、球場は更に300m奥にある。また公園自体が山の上にあるので道はかなりの急勾配だ。筆者は7月7日に試しに歩いてみたところ、駅から球場まで30分かかり暑さのためにバテてしまった。体力に自信のない人は歩かない方がよいと思う。

なお、公園周辺に人家がほとんどないため定期バスの本数は普段非常に少ないが、前述のように大きな行事の際は尾道駅から新尾道駅を経由するシャトルバスが運行されるので、それを利用するのがよいだろう。

<その2 グラウンドを甲子園と同じにした理由>

この球場の最大の特徴はグラウンドレベルを甲子園とほぼ同一にしたことだ。その徹底ぶりは、両翼やセンターへの距離だけではなく、ファールグラウンドの形状、外野フェンスの高さ、土や芝生の種類まで一緒ということでもおわかりいただけるだろう。

ここまで甲子園にこだわった理由は、実は高校野球における最近の広島県勢の不振にある。要するに、同じ球場を作ってそこで試合や練習をしておけば、その経験が本番に生きていい成績が残せるのではないかという発想だ。冗談のような話だが、高野連は本気で県当局に要望し、それがあっさり認められてこのような球場が完成した。

筆者はそれだけで広島県勢が強くなるとはとても思えないのだが…。ただ、グラウンド自体は広島県内では数少ないまともな広いものなので、備後地区の要として十分活用してほしいものである。

一塁側から 三塁側から
   
右中間から レフト側から

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