サンマリンスタジアム宮崎

(ゲスト寄稿/京都府・ふさ千明さん)

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それは、2004年10月23日のことだった。「どこかへ行きたい」 毎度煮詰まるとそう言う思いに駆られる私は、船旅を思いついた。「船なら職場から途中で呼び出されても、どうしようもない」ということで、フェリーの時刻表をめくっていた。すると、大阪発宮崎行きのダイヤがなかなか良い具合だった。夜8時に出て朝8時半に着く。しかも飛行機の半額で行ける。

「みやざき?」そう言えばと思ってネットで調べると翌日までフェニックスリーグをやっている。これは天の配剤であろう。というわけで、いざフェリーの出る大阪南港へ。フェリーの発着する埠頭が「かもめ埠頭」だったり途中の橋が「かもめ大橋」だったり。乗るフェリーの名前が「マリンエキスプレス」だったり。やたらと何かを連想させる。

窓口に着いたのは出港1時間前だったが、2等寝台を無事確保し12時間の旅が始まった。2等寝台と言っても船内には食堂も大浴場もあり、ロビーも広く使えるので実に快適だった。出港後しばらくしてから甲板に出て夜景や夜空を眺めると、浮世のことが幻のようだった。太平洋が穏やかだったためか、定刻より20分ほど早く宮崎港に着いた。

ちなみに、宮崎へは関東からなら飛行機が現実的な選択だ。なにしろ羽田から1時間半で着く。川崎港からも宮崎行きのフェリーは出ているが、週3日しか就航しないし、宮崎に着くまでに丸1日かかる。また、寝台特急「富士」も昔は宮崎まで来ていたが、今では途中の大分までしか運んでくれない。何しろ博多からでも特急で5時間半かかる。朝イチに乗っても着くのは昼過ぎ。何とも鉄道を趣味とする者には分が悪い地である。

閑話休題。バス停での待ち時間、一緒に並んでいた人たちから話しかけられる。「野球を見に来ました」というと、広島の日南キャンプ時代に高橋慶彦を見に何度も通ったと言う話を聞くことができた。慶彦の現役時代をまるで昨日見てきたかのように語る姿を見て、その人気の根強さを知ると共に「ねぇ、黒木は? 地元の黒木は?」という言葉が喉元まで出かかったがぐっとこらえた。

ちょうど話題が尽きた頃やってきたバスに乗って、宮崎駅着。駅構内を見て回ると、観光案内所にフェニックスリーグの手書きポスターが。お金をかけていない分、「応援しよう」という気持ちはこもっているように思えた。

試合開始までまだずいぶんと時間があったので神武天皇を祀った宮崎神宮へ。参拝して宮崎市内に戻り、昼食をとるため洋食屋「おぐら」へ向かった。宮崎名物チキン南蛮を食べる。名高い宮崎県産の鶏肉にマヨネーズをベースにした独特のたれが、もうただ「うまい」の一言だった。

そこから徒歩で宮崎駅まで引き返し、日南線に乗って球場最寄りの運動公園駅へ。宮崎駅から各駅停車で20分、快速なら19分。ここはホームが片面のみの無人駅なので、JRで宮崎に戻る予定であれば往復切符を買っておくことをお勧めする。というか、宮崎駅でもそれを勧めるアナウンスをしていた。

駅からは歩道橋を渡ってすぐに運動公園に着くのだが、そこからサンマリンスタジアムまでが遠い。歩いても歩いても着かない。おそらく2キロくらいはあったはずだ。

その途中、別の硬式野球場「ひむか球場」を見つけ、こことサンマリンスタジアムと位置が反対だったら良かったのだが、と思いつつその横を通り過ぎる。すると、遠くから歓声が聞こえてきた。試合前に何かイベントでも始まったのかと慌てながら駆けていくと、その声がサンマリンの隣でやっているサッカーの試合でのものであることを知り脱力する。

焦って駆けたため、10月下旬とは思えない宮崎の太陽を浴びて身体から汗がにじみ出てくる。それをぬぐいながら球場着。入り口を探すが、これが反対側にあり、また延々歩くはめになった。途中、三塁側関係者入り口付近にマリーンズバスが無造作に止めてあり、無関心&無警戒っぷりにちょっと悲しくなる。

それからまたしばらく行くと、ようやく入り口に着いた。本来なら、もう半周して何かめぼしいネタでもないかとたずね歩くところなのだが、試合開始まであまり間がないため、置いてあるフェニックスリーグ及びジャイアンツの広報誌をそれぞれ手にして、階段を駆け上がった。入場無料というのが非常にありがたい。

階段を上がってすぐのところにグッズ売り場があった。ワゴンの中はジャイアンツグッズばかりだったが、その隣の段ボールの上にわずかだがマリーンズグッズも置いてあった。しかし、豊富なジャイアンツグッズも、その中に「原前監督コーナー」があったりして、少しもの悲しい。敢えて買うほどのものもなかったので、そのままスタンドへ。

中は50人ほどの人の入り。地元の人だろうに、いや、地元の人だからか、皆ほとんど皆日傘をさしての観戦である。そうでない人は日陰のある最上段に固まっていた。せっかくだからバックネット裏に座ろうかと思ったが、太陽がまぶしくて試合に集中できないため、三塁側内野席に陣取る。

ここのグラウンドは両翼100m、中堅122mのプロ野球サイズ。内外野に敷かれた天然芝が陽光を浴びてキラキラとしている。GS神戸に負けず劣らずの美しい球場である。

背後に鰐塚山地の山々が見えるのは絶景ではあるが「サンマリン」という名前とはあまりマッチしない。この時球場を見回していて気が付いたのだが、マリーンズのユニフォームを着た人が数名いる。全く人のことは言えないのだが、毎度のことながらどんなところにもいるなぁ…。

また、試合に先立ってサインボールの投げ入れがあったのだが、人数の少なさのおかげで私もなんとか一つ確保できた。フェニックスリーグのロゴ入りなのが、なんとも嬉しい。

さて肝心の試合だが、攻守ともにジャイアンツがマリーンズを圧倒していた。先発林の100キロ台の落ちる球がバッターを翻弄し、5回無失点。その後は南、條辺とつないでリレー完封。また、打の方では2回に打者7人の猛攻で4点を奪うと、その後も矢野のソロアーチ、山田のタイムリー、大須賀のツーランなどで8得点。

また、こうした結果の面だけでなく、ジャイアンツのメンバーは皆攻撃時・守備時を問わず声をよく出して盛り上げていたし、プレーの一つ一つが基本に忠実でしかも反応が早い。特に、セカンドの長田が良かった。二遊間を転がる打球を全力の追走から逆シンングルキャッチして間を置かずファーストへ送球したその守備など、とても 今年20歳の選手のプレーとは思えなかった。

一方マリーンズはと言えば、声を出していたのは西岡や今江ら一部の選手で、ストライクは取れてもアウトが取れない長崎や、球が上ずってストライクの入らない三島、コンバートしたばかりとは言えボールをちゃんと追えないユウゴーに明らかに無気力な渡辺正人と、頭を抱えたくなった。これでは「宮崎の皆さん、マリーンズもよろしく」とはとても言えない。8−0という大差も納得である。

散々な展開だったが、それでもこの時期に夏のような日差しのもとでプロのプレーが見られただけでも、底冷えの京都から出てきた甲斐があったというものだ。

そう思って意気揚々と球場を出て目にしたのは、サイン攻めで身動きの取れないジャイアンツの選手たちに対して、そう言う動きも皆無であっという間に球場を後にするマリーンズバス。さみしいことだが、今日の展開では当然でもある。マリーンズの選手たちには厳しく受け止めて欲しかったのだが、バスから見える顔にそれらしきものはなかった。

さて帰りだが、フェリーは止めにして空港までタクシーで出て伊丹行きの飛行機に乗った。途中、年配の運転手さんとの話の中で出てきたのは、宮崎に根付いたジャイアンツの存在だった。

「私らONから原、中畑あたりなんか乗せたりするでしょう。そうするとね、どうしてもね、愛着がわくんですよ」とおっしゃっていた。「ただ、最近はちょっと選手も変わってきちゃってるけどね…」と寂しそうにしていたのが気にかかったが、それでも「黒木君、どうしてます?」「広島のキムタク、頑張ってますよね」など宮崎出身選手全般について語る様は温かだった。「また、お越し下さい」「また来ます」社交辞令でなく、また来たいと思える旅であった。


サンマリンスタジアム宮崎
日南線運動公園駅下車。徒歩15分。
宮崎駅前バスセンターから日南行きに乗り運動公園前下車、徒歩15分。
宮崎空港からタクシーで10〜15分程度で2000円弱。
宮崎港からは宮交シティ行きバスに乗り、宮崎駅前で下車して日南線乗車がおすすめ。

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