ライジングサンスタジアム

(ゲスト寄稿/広島県・いの一番さん)

MAP

2002年9月28日の朝、筆者は岩手県二戸市のビジネスホテルにいた。前日広島を出発して、新幹線を乗り継いで盛岡へ、そこから東北本線に乗りここまでやってきたのだ。

わざわざこの時期に岩手県までやって来た理由は二つある。一つは東北本線の未乗区間だった沼宮内−八戸に乗車することだ。2002年12月に東北新幹線が八戸まで延長されると、並行する東北本線は第三セクターになってしまうので、JRである間に乗っておこうと思ったのだ。そして二つ目の理由は野球観戦だ。この日岩手県野田村のライジングサンスタジアムで、イースタンリーグの巨人−日本ハムが行われるので、それに行ってみようと考えたのである。

一石二鳥の旅なのだが筆者の心は暗かった。なぜならこの日の天気予報が非常に悪かったからだ。前日夜の予報では、野田村のある岩手県沿岸北部地方は昼過ぎから雨で午後の降水確率は70%だった。しかし朝になってみると、午前中に雨が降り出し午後の降水確率は80%という予報になっていた。空を見ると確かにいつ降ってもおかしくない様子である。

筆者はこの日、宮古市に宿を取っていた。八戸までの未乗区間に乗り、そこから海沿いに南下して途中の野田で試合を見ていこうという行程である。天気が悪くても行程を変えるわけにはいかないので、二戸発8時31分の電車に乗る。この時点で二戸に雨は降っていなかったが、盛岡からやって来た電車を見ると車体は雨で濡れていた。どうやら盛岡の辺りでは既に雨が降っているようで、ますます気持ちが暗くなる。

八戸まで乗車し未乗区間を完乗、ここからは八戸線に乗車する。時間があったので本八戸で下車して長根球場に立ち寄ったが、この頃からついに雨が降り始め、あっという間に本降りになった。試合をするにはどう見ても支障のある降り方で、筆者はこの時点で覚悟を決めた。

本八戸発10時19分の列車に乗り南に向かう。車窓から見える太平洋は荒れており、雨のため視界も悪い。八戸線には15年ぶりに乗車したものの、暗い気持ちと相まって旅情を全く感じないまま11時57分久慈駅に到着する。


久慈駅構内

久慈からは第三セクターの三陸鉄道に乗換えで、二つ目の陸中野田駅が球場の最寄り駅だ。試合開始予定時刻は13時だが、雨は間断なく降り続いており筆者はもう試合中止は決定しているだろうと思った。しかしここまで来たのだから一応球場まで行ってみることに決め、12時18分陸中野田で下車した。

道の駅も兼ねている駅舎を通り抜け駅前に出る(余談だが、この駅では硬券入場券を売っている)。中止の看板でも出ているのではと予想していたところ、そこには何と球場行きのシャトルバスが待っていた。もっともシャトルバスといっても村営の国民宿舎の送迎バスなのだが。バスの前にいた係員に聞くと、試合はまだ中止になっておらず13時ギリギリまで待つようだとのこと。駅から球場までは徒歩で20分ほどかかるので、雨の中を歩く必要がなくなり安心する。車内には筆者の他にもわずかな望みを持った客が十数人おり、12時30分バスは球場へ向かって発車した。


シャトルバス

山側に向かって数分ほど走り球場に到着する。そこで筆者が見たのは試合開始を待つたくさんの人たちだった。おそらく1000人くらいはいたのではないだろうか。物陰で雨をしのいだり、スタンドで傘をさして座っていたりという具合だが、皆一縷の望みを託して雨が止むのを待っているのだ。

しかしグラウンドを覗いてみると、マウンドと各ベース付近にはシートがかぶせられており、それ以外の部分はかなりぬかるんでいる。両チームの選手たちもロッカールームに引っ込んでおりベンチは無人状態、これではとても試合が始まりそうな雰囲気はない。

筆者は一応入場券を買っておこうと思い、売り場に行ってみたところ発売は休止されていた。売り続けていると中止になった時払い戻しの件数が多くなるからということらしい。記念に手元に残しておきたかったのだが仕方がない。せっかく来たので球場の様子を観察することにした。ぐるりと一周してみると予想以上に立派な球場で、概要は次のとおりである。

完成:2000年
大きさ:両翼100m、センター122m
グラウンド:内野土、外野天然芝
スタンド:ネット裏−個別席、内野席−ベンチ席、外野席−芝生席(4098人収容)
スコアボード:一部電光式及び手書式
照明塔:6基

ネット裏から スコアボード
   
三塁側から
   
センターから

「村営の球場だから大したことはないだろう。」と思われた方がいるかもしれないが、この球場は下手な市営球場などよりはるかに充実した設備を持っている。グラウンドは十分な広さがあるし、芝生の状態もよい。さらに付け加えると、ブルペンはグラウンド内ではなく内野スタンドの裏にあり、雨でも練習できるように屋根がついているのだ。いろいろな球場を見てきた筆者も、これにはさすがに驚いた。

もっともこの球場は建設するのに10億円以上かかっているそうで、村役場の台所を相当苦しくしていると思われる。現在のところ新しいので問題はないようだが、今後修理が必要になった時に十分なお金が出せるのかどうかちょっと心配である。ただ、プレーに支障の出るような事態だけは避けてもらいたいものだ。

なお、球場の正式名称は「野田村総合運動公園野球場」といい、「ライジング〜」は愛称である。この愛称は公募で寄せられたものに村が手を加えて決まったそうで、地元ではこちらの方が通りがいいようだ。

さて、試合開始時刻の13時が近づいてくるにつれて雨はだんだんと強くなってきた。筆者の近くにいたファンが長く待たされてしびれを切らしたのか「やるのかやらないのか早く決めろ」と叫んだ。そしてその直後、声が聞こえたのか、ついに無情にも中止決定のアナウンスが場内に流れた。この時点でほとんどのファンは試合開催を諦めていたと思われるが、それでもあちこちから「あーあ」というため息が聞こえてきた。おそらく何ヶ月も前からこの日を待っていたのだろうから無理もない。しかし如何せん雨には勝てない。

グラウンドを見ると、雨の中巨人の選手が何人か出てきてスタンドにサインボールを投げ込んでいた。ファンに対するせめてものサービスといったところか。また巨人のマスコット、ジャビットも出て来てスタンドに向かって頭を下げていた。雨は彼のせいではないのだが、長時間待たされて多少不穏になっていたスタンドの雰囲気が少しは和らいだ。やがて、駅までのシャトルバスが出発するという案内があり筆者はバスに乗り込んだ。滞在時間は約40分だった。


グラウンドに出てきたジャビット

後で調べてみると、ここでは2000年に完成記念としてイースタンの試合が行われており、その時は途中で雨が降り1時間以上中断して危うくノーゲームになるところだったらしい。結局何とか試合を再開させ9回まで行ったそうだが、どうもイースタンとの相性が良くないようである。次に試合が行われる時には、名前のように太陽が空に昇った好天になることを祈りたい。

筆者としてもその時はぜひとも再訪したいという気持ちはあるものの、何しろ広島から岩手はあまりにも遠い。リベンジは難しく、観戦は心残りのまま終わりそうである。

次へ

inserted by FC2 system