ライジングサンスタジアム

(ゲスト寄稿/広島県・いの一番さん)

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前稿に書いたとおり、筆者は2002年9月に岩手県野田村までイースタンリーグの観戦に出かけたものの、試合は雨で中止となり計画は水の泡と消えた。その時の気持ちを筆者は「再訪したいという気持ちはあるものの、何しろ広島から岩手はあまりにも遠い。リベンジは難しく、観戦は心残りのまま終わりそうである」と書いたが、それは偽りのない本心だった。しかし…

2004年6月、発表されたばかりのイースタンリーグ後半戦の日程表を見ていた筆者は、9月5日の巨人−ヤクルトの開催地が「野田村」となっているのを見つけた。そしてその瞬間、心の中に2年前の悔しさが湧き出てきて再び行きたくなってきてしまったのである。

その思いは日を追うごとに強くなり、1ヶ月前に村役場に頼んで前売券を購入(万が一、売り切れるといけないと思ったのである)、さらに3日前の天気予報で、当日は岩手県の降水確率が低いことを確認して列車の切符を買い、仕事を休む段取りも何とかつけて、筆者はまたしても野田村へ向かったのだった。

2004年9月5日10時29分、筆者は三陸鉄道の陸中野田駅に降り立った。空はどんよりと曇っているが、予報では午後の降水確率は20%、雨の心配はなさそうだ。


陸中野田駅

駅前に出ると球場へのシャトルバス乗り場の看板が立っており、次の発車は10時50分となっていた。20分ほど時間があるので駅の売店で時間をつぶす。ここ野田村は太平洋に面しており海の幸が豊富なところだ。家族に買って帰る土産物を品定めしているうちに発車時刻が近づき、出てみるとちょうどバスが来たところだった。前回と同じく国民宿舎の送迎バスである。

待っていた10数名が乗り込みバスは球場へ向かう。途中には至るところに係員が立っており車の誘導をしている。まさに村を挙げてのイベントという感じだ。

駅から数分で、バスは球場に到着した。試合開始までまだ1時間半もあるのに、既に駐車場にはたくさんの車があり、グッズや食べ物の売店も賑っている。ここには焼きそばや鳥の唐揚げ、フライドポテト等昼食になるだけのものがそろっているのでありがたい。スタッフの表情が皆明るめに見えるのは、今回こそは試合がまともに開催できそうだからだろう。

グッズ売店 食べ物の売店

ところでこの試合の入場料は、座席の違いにより、次のとおり区分されていた。

座席   前売券   当日券
メインスタンド指定席(ネット裏)   3000円  
メインスタンド自由席   2500円   3000円
内野自由席   2000円   2500円
外野自由席(中学生以上)   1000円   1500円
外野自由席(小学生)   500円   1000円

正直言って、いくらネット裏とはいえ二軍戦で3000円というのはどう見ても高い。筆者の地元、広島市民球場で、年間指定席を除いて一番高いA指定席が3200円だから、ほぼ同じ額である。これまで行った二軍戦の中ではもちろん最高額だ。

なお、入場券のうち、指定席は村の教育委員会でしか購入できないが、他についてはローソンチケットを通じて全国どこでも購入できるようになっていた。村では初の試みだそうで、これがどの程度集客に貢献したのかは不明だが、いろいろな方法で情報発信するのはいいことだと思う。

ちなみに筆者は最初にも書いたように前売券を購入していた(ただしオリジナルの入場券がほしかったので、村から郵送してもらっていた)。雨が降るようであればここには来なかったのだが、旅行費用をドブに捨てることを考えれば入場券代は安い投資だし、幸い試合が開催されたので、郵送料を差し引いても若干得をした感じである。


入場券

場内に入るとヤクルトが守備練習をしているところだった。正直なところ在京チームの二軍となると広島在住の筆者にはなじみのない選手が多い。背番号と選手名鑑を確認しながら、にわか勉強をする。

待つこと1時間あまり、12時過ぎになり両チームの先発投手が、ヤクルト佐藤秀、巨人内海と発表される。12年目のベテランとルーキーの対決だ。続いて先攻のヤクルトからオーダーが発表され、「3番センター飯田」のところで、スタンドのあちこちから「あの飯田が?」といった感じのささやきが聞こえてきた。

そして4番が「サード畠山」とアナウンスされると場内全体から大きな拍手が起きる。プロ野球界では数少ない岩手県出身者なのだ。もっとも彼は同じ県内とはいえ遠く離れた花巻市出身だし、観客のほとんどは巨人ファンのはずなのだが、それにもかかわらず大きな声援が送られるところに、地元の方々の優しさと期待の大きさを感じる。

やがて12時30分が近づき、両チームの監督に花束が贈呈され、村長が始球式を行って試合が始まった。この時点でスタンドを見ると、ネット裏の指定席はほぼ満員だが他は6〜7割の入りといったところである。この付近では滅多にないプロ野球の試合なのでたくさんの観客が来るのではないかと予想していただけに、これは意外な感じがした。

花束贈呈 始球式
   
ネット裏スタンド レフトスタンド

さて、試合の方は1回裏に巨人が2番長田の三塁打、3番矢野の右前打で2点を先制した。いずれもいい当たりではなかったが、飛んだコースがよかったという感じだった。


スコアボード

2回、3回は両チームとも無得点で進み、4回表ヤクルトはようやく牧谷の左前打で1点を返す。その後は6回裏までまた両チームとも無得点、内海は4回以外はピンチらしい場面もなく6回まで7奪三振と力投し、佐藤秀も2回以降立ち直り6回まで無失点と、緊迫した投手戦になってきた。

そして、7回表一死後、内海に痛恨の失投が出る。7番梶本への2球目は真ん中に入り、打球はレフト場外に消えていく大ホームラン、これで2−2の同点になってしまった。

ネット裏から
   
三塁側から ライト側から
   
右中間側から

この後ヤクルトは佐藤賢から吉川へと投手をつなぎ、8回裏一死二、三塁のピンチを何とか切り抜ければ、内海は9回まで投げて合計11奪三振という好投で追加点を許さない。

9回表が終わったところで場内に「この試合は9回をもって打ち切りとなります」とのアナウンスが流れる。後で聞いたところによると、イースタンの規定では延長戦は11回まで行うのだが、この日は両チームとも東京に帰らないといけないので、9回で打ち切りということに決めてあったそうだ。

9回裏、場内の大方は巨人ファンなのでサヨナラ劇を期待したところだろうが、巨人の攻撃はあえなく3人で終了、試合は結局2−2の引き分けに終わった。終了時刻は15時33分だった。なお、一番大きな声援を受けた畠山は力が入りすぎたのか4打数無安打だった。

引き分けで勝負がつかなかったのは残念だったが、帰宅する観客は生でプロ野球を観戦することができて皆満足そうだったし、スタッフの表情も3回目でようやく無事に開催できたこともあってか、安堵しているように感じられた。


ブルペンを覗くファン

筆者もまた2年前のリベンジを無事果たすことができ、しばらくの間一人で観戦の余韻に浸っていた。これでもう野田村に思い残すことは何もない。二度と来ることはないであろう球場を何度も振り返りながら筆者は駅へ向かって歩きはじめた。

YS  
G  

(9回規定により引き分け)
本:梶本7号@(内海)

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