さよなら川崎球場

2000年1月5日、ついに来るべき時がやってきた。高橋清・川崎市長が記者会見で川崎球場を3月末をもって閉鎖することを発表したのだ。昭和27年に建てられたこの球場は観客席の老朽化が進み、「震度5」の地震で倒壊する恐れがあるため、グラウンド部分を残して年内にも解体するという。

まあ、一時は1998年の「神奈川ゆめ国体」を最後に解体すると噂されていたので、1年半ほど寿命が延びただけとも言える。そこでこのコーナーでは、消えゆく川崎球場の「最後の姿」をお伝えしたい。

★★★

第1部

「川崎球場ビッグフリーマーケット」にて(2000年2月6日)

解体が発表された段階では、まだ「さよならイベント」の類については何も発表されていなかった。そこでとりあえず一度行ってみようと思っていたところ、2月6日に「フリーマーケット」が行われるということを知った。

ここ数年、川崎球場でフリーマーケットが開催されていることは知っていたが、フリーマーケットには特に興味はないし、球場に野球以外で行くのも「なんだかツマラナイ」と思っていたので今までは足が向かなかった。

だが、もう無くなるとなると話は別である。しかも昨年秋に首都大学野球を観に行った時には営業していなかった「球場名物ラーメン」が営業している可能性が高い。ラーメンを食べに行くだけでも価値があると思い、出掛けた。


球場正面のチケット売場。「フリマ」の看板のある場所には、かつては対戦カードが掲示されていた

フリーマーケットは午前10時開始だが、別にいい商品を物色に行くわけではないので、球場に着いたのは午後1時前であった。入場料は300円で、チケットがわりのパンフレットを入口で見せれば、出入りは自由となっていた。


チケットがわりのパンフレット

中に入ると何はともあれ真っ先にラーメン小屋へ直行。かつては小屋の脇に食券売りのオバチャンが座っていたが、現在はその向かい側にある「レストラン富士」の自動券売機で食券を買うシステムになっている。代金550円を投入し食券を購入。ちなみに店の看板には「ラーメン」と書かれているが、食券には「中華そば」と書かれている。

看板と言えばかつては「球場名物ラーメン」と書かれていたので、筆者もその言い方に親しんでいたのだが、現在はただ単に「ラーメン」と書かれていて、その端に小さく「冷し中華 やきそば かき氷」と書かれている。

かつてのラーメン小屋 現在のラーメン小屋

小屋へ入ると、「プラス50円でゆで卵付き」というようなことが書いてあったので、50円硬貨を差し出し、ゆで卵を追加した。ところでこの「ゆで卵」だが、その時によって入っていたり、今回のように別料金になっていたりする。これが未だに謎だ。ラーメンを待っている間に、カウンターに置いてあるタンクからワンカップのコップに水を入れる。

そしていよいよラーメンが出来た。スープはあっさりした醤油味、細めでやや縮れた麺、具は薄いチャーシュー1枚にメンマ、海苔、刻みネギ、ナルト、そしてゆで卵は半分に切ったものが2切れ、つまり1個分が入っている。

このラーメンが、街中のラーメン屋のものと比べて美味いかというと決してそうは思わない。喩えて言えば、「海の家で食うラーメンは美味い」というのと同じだろう。でもとても「懐かしい味」である。

そして少なくとも他の球場のラーメンと比べたら間違い無く美味いと思う。それは他の球場のように発砲スチロールの容器ではなく、ちゃんとした陶器の丼に入っているせいもあるだろうが。

ちなみにラーメンを注文する時、ここでは「中か外か?」ということを聞かれる。これはどういうことかと言うと、「この小屋の中で食うのか、スタンドに持っていくのか?」という意味である。そして「外」とこたえると他の球場のような発砲スチロールの容器に入れられてしまう。

去年(1999年)の夏、高校野球神奈川県予選を観に行った際には、日曜日の好カード(東海大相模−日大藤沢)ということもあり、珍しく? 川崎球場にたくさんの観客が訪れた。その時には丼を洗うのが追いつかなくなってしまい、発砲スチロール容器で出され非常にガッカリしたものだ。


左が陶器の丼(中用)、右が発砲スチロールの丼(外用)

ラーメンを食べ終わると、とりあえずスタンドに上がり球場の全貌を眺める。グラウンドは人や商品を運んできた車でいっぱいだった。これはなかなか異様な眺めだ。普段の見慣れた川崎球場とは、なんか別の場所のように思えた。


グラウンドは車と人の洪水状態

そしていよいよグラウンドへ降りる。川崎球場のグラウンドに立つのは、もちろん初めてである。人工芝の感触は、毛先が短く部屋のカーペットのような感じで、以前入った千葉マリンスタジアムのフカフカした感触とは全く違うものだった。

なお、グラウンド上にはホームプレートはあったものの他のキャンバスは無く、マウンドに至ってはただの平らなアンツーカーであった。またダッグアウトは一塁側、三塁側とも入るとが出来たので、ベンチに座ってそこからのグラウンドの風景を見てみた。

この視線で村田兆治や落合博満がグラウンドを眺めていたんだなあと思いを巡らす。ただしグラウンドには夥しい車や人の群れがあり、その空想はすぐにかき消されたが。

 
一塁側ダッグアウトから見た風景

そしてダッグアウト裏へ。一塁側ダッグアウトから記者席、監督室、ミーティングルーム、ロッカーなどの前を通って外に出れるようになっていた(ただし中は覗けない)。さらにグラウンドを一周して、外野フェンスの感触を確かめたり、バックネットにあるボール出し入れ用の穴を開いてみたりと、ひとりで「球場見学会」をしてみた。


佐野仙好(元阪神)が頭をぶつけたこともあるレフトフェンス

そうこうしている間に時刻は2時をまわったが、まだハラは減らない。しかしこの日、もうひとつ食べておきたいものがあるのだ。それは三塁側の「広島風お好み焼」である。

ここ数年、川崎球場に野球(アマ)を観に来てもずっと閉まっていたのだが、今日は幸いにも営業しているのだ。一体このお好み焼を食べるのは何年ぶりだろうか。甘目のソーズに焼きそば入り。うん、まさしくあのお好み焼だ。ひょっとしてもう食べれないのでは、と思っていたので感慨もひとしおである。ただしラーメンとの「ダブルヘッダー」は少々胃にもたれたが。


これも川崎名物「広島風お好み焼」

お好み焼を食べ、充分満足感を得た筆者は川崎球場を後にした。結局フリーマーケットに並べられていた商品は全然見なかったな。

ちなみに川崎球場のフリーマーケットはこの日が最後ではなく、3月5日にも行われるとのこと。そしてしばらくの間休止されるという案内がなされていた。ということは、スタンドの撤去工事が終わったあとには再開されるということだろうか。

★★★

第2部・「川崎球場オリオンズさよならイベント」にて 

につづく


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